厚生労働省の最新の毎月勤労統計調査によると、日本の消費者物価調整後の現金給与総額は9月も前年比で伸び、実質賃金が黒字化したのは9カ月連続となった。2025年春闘でまとまった賃上げが名目賃金を消費者物価の上昇ペースを上回る形で押し上げている。日銀が次の利上げ判断で注視してきた賃金—物価の好循環は生きており、植田和男総裁は11月初旬のワシントンでの会合後、上振れインフレリスクへの警戒を改めて示した。
9月調査が示したこと
厚生労働省は、残業代や賞与を含む労働者1人当たりの現金給与総額が9月に前年比で増加したと報告した。消費者物価指数で調整した実質賃金もプラス圏にあり、内閣が「家計の購買力回復の証拠」として掲げてきた連続記録が続いた。製造業とサービス業の双方が寄与したが、非正規や中小企業のカバーは、3—4月の報道を占めた大企業の春闘合意水準にまだ届かない部分があり、省は注意を促している。
名目賃金は、将来のインフレ指標に連動した基本給の引き上げを含む、大手雇用主による過去最大級に近いベースアップに支えられている。このラグが重要だ。CPIが落ち着いても、契約済みの段階的上昇が名目賃金を押し上げ、政策当局はそれが年末のボーナス期まで消費を支えることを期待している。国内証券のアナリストは、9月の数値は夏季賞与の計上パターンでぶれやすいと指摘する一方、9カ月の実質プラスは単発のボーナス尖りより広いと読んでいる。
春闘賃上げの浸透
2025年春闘では、経団連系の大手を中心に、過去数年を上回る平均賃上げ率が報じられた。労組はインフレ条項を求め、航空・自動車・電機では複数年枠組みが合意された。中堅サプライヤーや地方企業は合意が遅れがちで、秋の調査月に入っても給与システムへの反映が続いている。連合は小規模事業場での追いつき交渉がまだばらついていると述べており、運輸や重工が小売店員より強いという省の産業別内訳に表れている。
政府の審議会は賃金議論を生産性改革やデジタル給与報告と結びつけ、複利にならない一時手当より透明なベースアップが望ましいと主張してきた。家計にとっての実務的な試金石は、税・社会保険料控除後に食料や光熱費が給与伸びを上回るかどうかだ。9月の実質プラスは集計上その閾値を超えたことを示すが、東京23区内の単身世帯が同じ感覚を持つとは限らない。
ワシントンでの植田発言
10月下旬から11月初旬にワシントンで国際会合に出席した日銀の植田総裁は、海外の成長不確実性が残る中でも上振れインフレリスクへの警戒を怠れないと記者団に述べた。コメントはマイナス金利時代からの段階的な脱却をすでに進めている政策路線の後に出され、市場の論点をデフレ懐古から、賃金モメンタムがさらなる正常化を正当化するかへと振り向けた。
植田氏は12月の政策決定会合に先立って約束はせず、実質金利は依然として緩和的であり、各会合で物価と賃金データを天秤にかけると繰り返した。トレーダーにとって9月の賃金系列は東京CPIや輸入物価指数と同じダッシュボードに載る。ワシントン週のドル円の動きは越境のレンズを足す。円安は輸入コストを押し上げ、国内で政治家が持ち上げる実質賃金回復そのものを複雑にしうる。
日銀政策委員会の計算
政策委員会メンバーは公演で利上げ速度をめぐって割れ、金融安定のバッファーを強調する声と、人手不足を企業投資計画に挙げるなか過度な引き締めを戒める声が並ぶ。賃金データはタカ派寄りの翼に、需要側プレッシャーが輸入エネルギーだけではない証拠を与える。ハト派は、11月3日の文化の日などを含む秋の連休クラスター後に旅行需要が平常化すればサービスインフレが剥落しうると反論する。
マネー・マーケットはショック利上げより漸進路線を織り込んでいるが、他のG7が高頻度の給与統計を持つ一方で日本はそれが薄いため、各厚労省発表のたびに先物金利は反応する。9カ月の実質賃金ストリーク単独で利上げを強制するわけではないが、春闘成果と日銀ガイダンスのなかで植田氏が育ててきた修辞的リンクを引き締める。
今後の注目点
10—11月の調査発表はボーナス計上がトレンドを歪めるかを示し、冬季の電気料金改定は実質賃金デフレーターに戻る。連合は2026年春闘前に小規模企業へ春闘並みを迫る冬の集会を計画している。日銀ウォッチャーは植田のワシントンでの口調を10月金融システムレポートの労働市場ボックス、次会合後の主な意見の要旨と比べ、家計は年末ボーナス前に可処分支出が拾うかを見る。
